迂回路を聞き出した私達は、国道を北見市に向かって走り出しました。カーナビが迂回路をちゃんと示すようになるまで心は落ち着きませんでした。10分ほど走ったあたりでやっとナビは迂回路を示しました。あと30分で到着ともナビは示しています。ほっとしました。
30分で無事チミケップホテルに着けるとわかった主人が、大きくため息をついた後、クスクス笑いだします。
「さっきも電話にでたあの男性は1週間前にお前が電話した時、普通はお客さんにきかんか?『どちらから来られますか?』と。その男性はお前に聞かんかったやろう。やっぱり来てほしくなかったんぜ。俺たちに。このレストランは。
おそらく、電話の最中にお前が『では又にします』と言うように仕向けようとして、カレーライスと言ったんだと思うよ。彼の意に反して、お前は予約したけど、彼は『2、3日もすればキャンセルの電話をかけてくるだろう』と予想しただろう。それが、予約当日に、お前の「通行止めでいけませ〜ん」叫ぶような電話。びっくりしたやろうな。『やばい!本当にくるよ。このおばちゃん』と、ホテルでは、今頃慌ててボンカレーを温めているよ。それとクノールカップスープも。」
と主人は、レストランに失礼なことを言います。
「ミシュラン星レストランがそんなことする? それにこの男性は、困ったような感じでもなかったし、優しく、『ああ今工事していますもんね こちらは構いませんのでゆっくりいらしてください』と言って丁寧に迂回路を教えてくれたよ」
と男性の肩を持ちたくなりました。
「そおかぁ、工事とわかっていたのなら、なおさら1週間前の電話の時に通行止めと言えよなっ、て言いたいぜ。よっぽどとろいお兄ちゃんなのかな?」と厳しい評価。
しばらく黙って運転していましたが、
「うーん、ひょっとしてお前が2度目に電話したのは、実は、チミケップホテルではなく、チミケップホテルの近くにある、ドライブインチミケップじゃないのか?
最初の電話の時は確か、若い20代ぐらいの女性が電話に出たんだよな。そのあと、1週間後の予約を入れようとお前が2回目にかけた時にこの若い男性がでたやろ? お前は、このとき間違ってドライブインチミケップに電話をかけたんだぜ。
このドライブインチミケップは、ホテルの近くにあってしかも、電話番号も似ているので、間違えてよくこのドライブインにかける人間がいて、そういう人たちをからかって楽しんでいるのかも。
おそらく、チミケップホテルについたら『予約を頂いていませんが』と言われるぞ。
その時、お前、『あのーカレーライスを予約したのですが』と言ってみろ。若い女性が笑って、『それでしたらドライブインチミケップにお電話されたのですね。 そのドライブインはここからもう少し奥に行ったところにあります。』と言われるはずだ。」
妄想癖のある主人です。
いつもなら、「アホか、いい加減にせい」と思うのですが、「今回は通行止めまで食らってしまったからな」という主人の言葉が引っかかっていて、もっともだと納得しています。
「そうかもね、ドライブインチミケップだったら、カレーライスが合うもんね。」と、本当に3時間半以上も車できて、ドライブインチミケップに行くことになるのかと心配しました。
「それとも、ホテルの中にレストランとは別にカジュアルなカフェがあってそっちに案内されるのかも」と、どうしても1週間前の私の電話の仕方が、この時になっても気になっています。
(その上、今日はカレーライスということなので、きちんとした格好で来ていません。主人はいつものように上下ユニクロで汚れたスニーカーだし、、、これだけでフレンチレストラン出入りお断りよね)
と心配もしてきました。
そうこうしているうちに、ナビが音声案内で左折を指示しました。ナビに従い左折しました。
しばらくすると、さっきの通行止の時と同じように、「ここから砂利道」との標識。何か嫌な予感。
主人は、笑って「また通行止めが出てくるっちゃないや?」とアクセルを踏み込みます。
今度は「通行止の看板」は出てきませんが、雪道となりました。
滑りはしないかと思う雪道をゆっくりと登っていくと晴れ間が見えてきました。すると砂利道の左手に明るい看板が立っていました。
私には、今は野鳥のことまで考える余裕はありません。ドライブインチミケップの看板でなくホットしただけでした。反対の右手にはチミケップ湖と思われる湖が見え、すぐ先にはキャンプ場も見えました。
まだまだホテルは見えてきません。道はだんだん狭くなります。大きな自家用車2台がすれ違うのは危ないのではと思うくらいです。
右を見ると、林の向こうに湖が見えています。そして、再び看板が立っていました。チミケップ樹木園と書いてあります。
今度もドライブインチミケップの看板ではなかったのでホットしました。
更に進みました。少し道が狭くなったなと思ったら右に建物が見えました。
思ったより小さかったので、ドライブインチミケップかもしれないと思って、通り過ぎようと思った時、建物玄関にある「CHIMIKEPP HOTEL」 の文字を認めたので、駐車場へとハンドルを右に切りました。
やっと着いたという感じです。
駐車場には、北見ナンバーの車が3台と、関東ナンバーのSUVが1台止まっていました。関東から車でやってきているお客さんでしょうか。
3匹のワンちゃんがいました。番犬でしょう。綺麗なお手製の犬小屋でした。
「さあ、気合いを入れていくぞ」と主人はニヤニヤしながら車を降りました。
中に入ると、電話での声と同じ若い男性が出てこられました。白のシャツに、黒のパンツとエプロンで、よく見るウエイターさんの格好です。靴だけが格式あるホテルでは見ない黒いスニーカーでしたので、主人のスニーカーを心配していた私はほっとしました。
男性は、EXILEの中の一人に似ているようでした。EXILEのその人の顔を掘りを浅くし、とんがったまゆのトンガリを緩くした感じのイケメンです。
名前を告げると、そのEXILE君は
「お待ちしておりました。どうぞ」と笑顔で、そして予想通りの格式あるホテルマンのような仕草で中へと案内してくれました。
(よかった、私はちゃんとチミケップホテルに電話していたんだ)
すぐにダイニングが見えました。私達以外には、ダイニングにはお客さんはいませんでした。
さて、案内されたテーブルにはナイフがなく、左側にはカレーをつぐスプーンが置いてありました。
(やっぱり、カレーね。ナイフが置いてないので、本当にカレーだけのようね)
おしぼりを差し出してくれたEXILE君の仕草も格式あるホテルのウエイターのようです。
まず、サラダを持ってきてくれました。
その後にスープを。そのスープを見た瞬間は主人のさっきの言葉を思い出しました。
(クノールカップスープ?)
「津別町の人参を使ったクリームスープです」とのことでしたが、やや濃い味と感じましたが、これが美味。クノールカップスープなどと思ってすみません。
その後、ポークカレーが運ばれてきました。
見た目はくどそうでしたが、あっさりしています。そしてとにかく、美味しい。
主人は、「ボンカレーじゃなくてよかったな。それにしてもこれ美味しいぞ。」と喜んでいます。
1日3食カレーでもOKという主人です。私が家を留守にするときは、いつもカレーを食べるくらいの大のカレー好き。その主人が「こんな美味しいカレーは久しぶり」と言います。
あっという間にカレーを食べ終わった主人に EXILE君は「ご飯のおかわりできますが、どうされますか」と、聞いてくれました。
また、「デザートにアイスクリームを用意しております。300円の追加となりますが、コーヒーか紅茶もご用意できますが」との事。電話の時と同じ口調です。
食事をしながらEXILE君と少し会話するようになり、少なくとも招かれざる客ではなかったようだと感じました。
食後の紅茶をいただいている時に、思い切って、この1週間の疑問をぶつけました。
彼の話をまとめるとこうです。
【このホテルでは、Wシェフが一人で料理を作っている。シェフの午前中の予定で、その日は昼のコースを準備できるか否かが決まる。もし、午前中に予定などが入っていて、コースの準備が出来ないときは、カレーライスを出している。だから、1週間前に私からの電話を受けた時には、まずシェフに予定を聞くために一旦電話を切った。しかし、すぐにはシェフに連絡がつかなかったので、返事の電話が出来ずにいて困っていた。そこへしびれを切らした私が再度の電話をかけてきた。そのあと、やっとシェフと連絡が取れてこの日はカレーしか出来ないことを折り返して伝えた。】
なるほど。
話を聞いていた主人は、(だったら、最初からそう言えよ、気がきかねえなあ)という顔をしています。
彼のその話し方や、仕草からまだこのホテルに(そして、仕事にも)慣れていないように私は感じました。
彼はおそらく、「只今 Wシェフは食材の確保のために街に行っておりますので、すぐにお返事できません。申し訳ありませんが、折り返しお電話します」と言いたかったのだろうけれども、うまく言えなかった、と察しました。
まあ、とにかく事情がわかって私の脳みそは元に戻りました。
そして、Wシェフのコース料理を是非ともいただきたくなり、主人の休みを確認して、雪が積もる前に、1泊2日で予約しました。Wシェフの料理が今から楽しみです。
もし、泊まりの時にコース料理が出なかったり、変わったことが起こったら又書きますね。
最後までお読みくださりありがとうございました。
では、また
(ご注意)「ドライブインチミケップ」というのはあくまでも主人の妄想の産物です。もし実在していましたら、全く関係はありません。